AIネイティブなB2Bソフトウェア受託開発会社である株式会社世良(本社:東京都目黒区、代表取締役CEO:遠藤 嵩良、以下「世良」)は、埼玉医科大学国際医療センターとの共同研究成果が、国際学術誌『Journal of Cardiovascular Electrophysiology』に掲載されたことをお知らせします。
本研究では、心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)を受けた患者の植込み前12誘導心電図を用いて、治療反応を予測するAIモデルを開発・評価しました。画像形式の心電図を利用する深層学習モデル、未ラベル画像を活用した自己教師あり学習モデル、デジタル波形から抽出した特徴量を用いる機械学習モデルを、同一の対象データで比較しています。
当社所属研究者は、本論文に共同筆頭著者として記載されています。
研究の背景:CRTは、心室の収縮タイミングを整えることで心機能の改善を目指す、重症心不全に対する治療法の一つです。一方、治療を受けても十分な改善が得られない患者が一定数存在するため、植込み前の情報から治療反応を予測する方法が求められています。 心電図は日常診療で広く利用される検査ですが、AIへ入力する際には、医療機関や計測機器によってデジタル波形の形式が異なるという課題があります。本研究では、一般的に保管・共有しやすいJPEG形式の心電図画像をAIへ直接入力する方法を採用し、デジタル波形を用いるモデルと比較しました。
285例を対象に3種類のモデルを比較:研究対象は、CRT植込み後に6か月間の追跡を完了した285例です。植込み後6か月時点で左室収縮末期容積が15%以上減少した症例をレスポンダーと定義し、182例がレスポンダー、103例がノンレスポンダーに分類されました。 比較したモデルは次の3つです。 ResNet-18:JPEG形式の12誘導心電図画像を入力する深層学習モデル SSL+ResNet-18:約4,000枚の未ラベル心電図画像で自己教師あり学習を行い、その後に治療反応データで調整したモデル LightGBM:12誘導の時系列データから抽出した60次元の統計特徴量を入力する機械学習モデル 心電図画像からは、患者を特定し得る情報、日付、施設情報などを除去し、224×224ピクセルへ統一しました。データは患者単位で学習用80%・評価用20%に分割し、同じ患者のデータが両方へ混在しないようにしています。さらに、異なる10種類の乱数条件で繰り返し評価しました。
自己教師あり学習モデルが最も高い平均AUCを記録:10回の評価における平均AUCは、LightGBMが0.659 ± 0.032、ResNet-18が0.613 ± 0.111、SSL+ResNet-18が0.669 ± 0.048でした。 各モデルの最良試行時のAUCは、LightGBMが0.701、ResNet-18が0.728、SSL+ResNet-18が0.766でした。平均AUCと最良試行時AUCの双方で、SSL+ResNet-18が最も高い値を示しています。
主要な検証数値:研究対象 285例、レスポンダー 182例、ノンレスポンダー 103例、評価条件 10回、SSL+ResNet-18の平均AUC 0.669 ± 0.048、SSL+ResNet-18の最良試行時AUC 0.766、自己教師あり学習に用いた未ラベル画像 約4,000枚、Grad-CAMによる可視化評価 36例 AUCは、レスポンダーとノンレスポンダーを識別する性能を、閾値に依存せずに示す指標です。1に近いほど識別性能が高いことを表します。
未ラベル心電図画像を活用する自己教師あり学習:医療AI研究では、専門家によるラベル付けが必要なデータを大量に準備することが難しい場合があります。本研究では、約4,000枚の未ラベル心電図画像を用いて、SimCLR型の自己教師あり学習を実施しました。 まず、同じ心電図画像へ異なる変換を加えた画像同士を近づけ、別の心電図画像とは区別する学習を行います。その後、事前学習した重みをResNet-18へ引き継ぎ、CRTの治療反応データでファインチューニングしました。 この2段階方式により、限られたラベル付きデータだけでゼロから学習する場合と比べ、乱数条件による評価の変動を抑えながら、心電図画像の特徴を利用することを目指しました。
Grad-CAMでモデルが注目した領域を可視化:画像モデルについては、モデルが心電図画像のどの領域へ強く反応したかを可視化するGrad-CAM分析を、レスポンダー36例に対して実施しました。 強く反応した領域は、胸部誘導が13例(36.1%)、四肢誘導が16例(44.4%)、胸部誘導と四肢誘導の両方が7例(19.4%)でした。胸部誘導を含む領域に注目した症例は、合計20例(55.6%)です。 Grad-CAMは、モデルが反応した画像領域を示すものであり、医学的な因果関係や判断理由を完全に説明するものではありません。本研究でも、同様の心電図所見を持つ症例間で注目領域が異なる例が確認されており、可視化結果を医療専門家が個別に評価する必要があります。
心電図画像を用いる研究手法の可能性:デジタル波形を入力するAIモデルを別の医療機関や計測環境へ展開する場合、データ形式や前処理の統一が必要になることがあります。 本研究では、一般的なJPEG形式の心電図画像を直接利用するモデルが、デジタル波形から作成した特徴量を用いるモデルと数値上比較可能な識別性能を示しました。これは、データ基盤が異なる環境でも、心電図画像を共通の入力形式として研究を進められる可能性を示す結果です。 ただし、本研究は単一施設の後ろ向き研究であり、対象数も285例に限られます。異なる医療機関、計測機器、患者集団へ適用できるかを確認するには、より大規模な独立データによる外部検証が必要です。
世良の技術支援範囲:埼玉医科大学国際医療センターとの共同研究契約では、世良の担当業務として、次の領域が定められています。 心電図解析/心電図等に関する学習用データセットの作成・ラベリング/心電図解析・画像解析に関するAIモデル開発/心電図解析・画像解析に関する統計解析/心電図解析や生成AIを用いた研究用システム開発 本研究では、この枠組みに基づき、心電図画像と時系列データの前処理、複数モデルの比較、反復評価、可視化を含む技術支援を行いました。
今後について:世良は今後も、医療研究者の専門的な知見を尊重し、データの適切な取り扱い、患者単位でのデータ分割、複数条件での評価、説明可能性の検証などを研究工程へ組み込みながら、医療AIの研究開発を支援してまいります。
本記事で紹介するAIモデルおよび解析手法は研究段階の成果です。医療機器として承認されたものではなく、個別の患者に対する診断、治療方針の決定、または医師その他の医療専門家による判断を代替することを目的としたものではありません。実用化には、独立した外部データや前向き研究による追加検証が必要です。
株式会社世良(Sera, Inc.)/ お問い合わせ: info@sera-inc.co.jp