心電図AI共同研究 - データセット作成・AIモデル開発・統計解析・研究用システム開発

株式会社世良は、埼玉医科大学国際医療センターとの共同研究において、心電図解析、学習用データセットの作成・ラベリング、AIモデル開発、統計解析および研究用システム開発を技術面から支援しました。

共同研究では、次の2つのテーマを検証しました。

研究1:CRT治療反応予測(深層学習):植込み前の12誘導心電図から、心臓再同期療法(CRT)の治療反応を予測する深層学習研究

研究2:PVC起源分類(LLM):12誘導心電図画像から、心室期外収縮(PVC)の発生起源を右側・左側に分類するLLM研究

研究成果はそれぞれ国際学術誌『Journal of Cardiovascular Electrophysiology』に掲載され、当社所属研究者は両論文に共同筆頭著者として記載されています。

研究開発上の課題

1. 医療機関や計測機器によって異なる心電図データ形式:心電図AIでは、計測機器から取得したデジタル波形が用いられることがあります。しかし、データ形式や出力仕様が医療機関・計測機器ごとに異なる場合、別の環境へモデルを展開するためにデータ基盤の統一や前処理の再設計が必要になります。 本共同研究では、一般的なJPEG形式の12誘導心電図画像をAI入力として利用し、画像形式からでも研究に必要な特徴を抽出できるかを検証しました。

2. ラベル付き医療データを大量に準備する難しさ:医療データのラベル付けには、専門的な知識と確認作業が必要です。限られたラベル付きデータだけで深層学習モデルを構築すると、過学習や評価条件による性能の変動が大きくなる可能性があります。 CRT研究では、約4,000枚の未ラベル心電図画像を用いた自己教師あり学習を行い、その後にラベル付きの治療反応データでモデルを調整する2段階方式を採用しました。

3. 性能だけでなく、判断経路と不確実性を確認できること:医療AIでは、最終的な正解率だけでなく、モデルがどの情報を利用したか、どの症例で判断が難しくなるかを確認できることが重要です。 CRT研究ではGrad-CAMを用いて画像モデルの注目領域を可視化しました。PVC研究では、LLMに最終結果を一度に求めるのではなく、波形の同定、所見抽出、数値化、ルール統合へ工程を分け、各段階の出力を確認可能にしました。

契約書に基づく世良の支援範囲:共同研究契約では、世良の担当業務と成果物が次のように定められています。公開ページでは、論文内容に直接関係する心電図領域へ絞って記載しています。 心電図解析 心電図解析結果、レポート、解析データ、心電図等に関するデータセット作成・ラベリング ラベリング済みの学習用データセット、心電図解析・画像解析に関するAIモデル開発 学習済みモデル、心電図解析・画像解析に関する統計解析 統計解析結果レポート、心電図解析や生成AIを用いたシステム開発 研究用システム 世良は、医療研究者から提供される医学的知見や評価基準を、AIが学習・検証できるデータ構造と開発工程へ変換する役割を担いました。

研究1:植込み前心電図によるCRT治療反応予測

研究目的:CRTを受ける患者について、植込み前の12誘導心電図から、植込み後の治療反応を予測するAIモデルを開発・評価しました。

対象データ:CRT植込み後に6か月間の追跡を完了した285例を対象としました。左室収縮末期容積が15%以上減少した182例をレスポンダー、基準を満たさなかった103例をノンレスポンダーに分類しています。

比較したモデル:JPEG形式の心電図画像を入力するResNet-18/約4,000枚の未ラベル画像で事前学習したSSL+ResNet-18/デジタル波形から作成した60次元の統計特徴量を入力するLightGBM

評価設計:患者単位で学習用80%・評価用20%に分割/同一患者のデータが学習用と評価用へ混在しないよう制御/異なる10種類の乱数条件で反復評価/ROC-AUCによるモデル間比較/Grad-CAMによる36例の注目領域可視化

主な結果:平均AUCは、LightGBMが0.659 ± 0.032、ResNet-18が0.613 ± 0.111、SSL+ResNet-18が0.669 ± 0.048でした。最良試行時のAUCは、SSL+ResNet-18が0.766でした。 画像を入力するモデルが、デジタル波形から作成した特徴量を入力するモデルと数値上比較可能な識別性能を示し、異なるデータ基盤でも利用しやすい心電図画像を共通入力として活用できる可能性が示されました。

研究2:LLMによるPVC起源の右側・左側分類

研究目的:12誘導心電図画像から、PVCの発生起源を右側・左側に分類する方法について、CNNとLLMを比較しました。特に、LLMが最終結果だけを返すのではなく、判定に用いる心電図所見を段階的に抽出できるかを検証しています。

対象データ:PVCまたは特発性心室頻拍に対するカテーテルアブレーションが成功し、発生起源が確認された157例を対象としました。右側起源は103例、左側起源は54例です。

比較した方式:心電図画像に特化したCNN方式/LLMによる一括判定方式/LLMによる段階的な所見抽出と決定論的ルールを組み合わせる方式

評価設計:患者単位で学習用80%・評価用20%に分割/異なる5つの乱数条件で検証/連続的なルールスコアとCNNのROC-AUCを比較/厳格な閾値を設定した際の陽性的中率と再現率の変化を分析/判断が難しい中間スコア領域を分析

主な結果:段階的LLM解析の平均AUCは0.720 ± 0.045、CNN方式は0.712 ± 0.054であり、数値上比較可能な識別性能を示しました。 一方、全体の約21%が右側・左側の分類が難しい中間スコア領域に分布しました。この領域を無理に分類せず、専門家の確認へつなぐ考え方は、AIの不確実性を運用へ組み込むうえで重要な知見です。

研究開発で採用した主な設計

患者単位のデータ分割:同じ患者の心電図が学習用と評価用へ混在すると、モデルが患者固有の特徴を記憶し、実際より高い性能が得られる可能性があります。本共同研究では、患者単位でデータを分割し、データリークを防止しました。

複数条件での反復評価:一度のデータ分割だけで結果を判断せず、CRT研究では10条件、PVC研究では5条件で評価しました。平均値とばらつきを確認することで、特定の分割条件だけに依存しないかを検証しています。

比較対象を置いたモデル評価:新しい手法だけを単独で評価せず、CRT研究では画像モデルと時系列モデル、PVC研究ではLLMとCNNを比較しました。既存アプローチとの違いを明確にすることで、手法の強みと限界を整理しました。

説明可能性・追跡可能性の検証:CRT研究ではGrad-CAMによる注目領域の可視化、PVC研究ではLLMの段階的な中間出力を採用しました。いずれも完全な説明を保証するものではありませんが、モデルの出力を専門家が点検するための手がかりを増やすことを目的としています。

判断困難例を人へ引き継ぐ設計:PVC研究では、約21%の症例が中間スコア領域に分布しました。AIへ必ず二択の結論を出させるのではなく、不確実なケースを明示して専門家へ引き継ぐHuman in the Loop型の運用が必要であることを確認しました。

本事例から提供できる支援:世良では、心電図に限らず、医療画像、検査データ、臨床研究データを用いるAI研究について、次の工程を支援します。 研究仮説を検証可能なAIタスクへ整理/データ項目・ラベル・評価基準の設計/匿名化・前処理・学習用データセット作成/機械学習、深層学習、LLMを用いたモデル開発/ベースラインモデルとの比較/患者単位のデータ分割と反復評価/ROC-AUC、PPV、NPV、再現率などの統計解析/Grad-CAMや段階的出力によるモデル挙動の確認/研究用のデータ入力・解析・評価システム開発 研究用途のAIでは、モデルを作ること自体ではなく、研究上の問い、データ、評価方法、限界を一つの検証可能なプロセスとして設計することが重要です。

研究の限界と公開上の位置付け:2つの研究はいずれも単一施設の後ろ向き研究です。異なる施設、計測機器、患者集団で同様の結果が得られるかは、独立した外部データや前向き研究で確認する必要があります。 また、開発したモデルは医療機器として承認されたものではありません。研究段階の解析手法であり、医療専門家の判断を代替するものではありません。

本記事で紹介するAIモデルおよび解析手法は研究段階の成果です。医療機器として承認されたものではなく、個別の患者に対する診断、治療方針の決定、または医師その他の医療専門家による判断を代替することを目的としたものではありません。実用化には、独立した外部データや前向き研究による追加検証が必要です。

基本情報

共同研究先
埼玉医科大学国際医療センター
支援開始
2025年2月
対象領域
心電図解析、循環器領域の医療AI研究
世良の担当
心電図解析、データセット作成・ラベリング、AIモデル開発、統計解析、研究用システム開発
主な技術
ResNet-18、自己教師あり学習、LightGBM、LLM、構造化出力、決定論的ルール、Grad-CAM
研究成果
国際学術誌掲載2報、両論文で当社所属研究者が共同筆頭著者として記載
学術成果
心電図AIに関する研究論文2報が国際学術誌に掲載
CRT研究
285例を対象に、画像モデル、自己教師あり学習モデル、時系列モデルを比較
PVC研究
157例を対象に、CNN、LLM一括判定、段階的LLM解析を比較
説明・追跡可能性
Grad-CAMによる注目領域の可視化と、LLMの段階的な所見抽出を検証
安全性を意識した設計
判断が難しい中間領域を抽出し、専門家確認へつなぐ考え方を整理
論文1・論文名
Deep Learning-Based Prediction Model for Cardiac Resynchronization Therapy Responders Using Electrocardiogram Data
論文1・掲載誌
Journal of Cardiovascular Electrophysiology, Volume 37, Issue 1, pp.157-164
論文1・オンライン公開日
2025年12月2日
論文1・DOI
10.1111/jce.70212
論文2・論文名
Large Language Model-Based Localization of Premature Ventricular Contraction Origins: A Retrospective Diagnostic Accuracy Study
論文2・掲載誌
Journal of Cardiovascular Electrophysiology
論文2・オンライン公開日
2026年8月1日
論文2・DOI
10.1111/jce.70464

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